飲食店の損益分岐点売上の出し方|1日いくら売れば赤字にならないか
「今月、いくら売れば赤字にならないんですか」。店長からこう聞かれて即答できるかどうかで、その店の1か月の走り方が変わります。答えられれば、現場は毎日その線と自分の売上を比べられます。答えられなければ、月末に締めてから青くなるしかありません。
沖縄で3店舗を経営していますが、店の数字で現場に必ず配るのはこの1本です。売上目標でも原価率でもなく、「1日いくら売れば赤字にならないか」。この記事では、その線の出し方と、線に届かないときの動き方を書きます。
損益分岐点売上とは|固定費を限界利益率で割るだけ
損益分岐点売上とは、利益がちょうどゼロになる売上のことです。これを超えた分が利益、下回った分がそのまま赤字になります。計算式はシンプルです。
- 変動費率(%)= 食材費率(原価率)+ その他の変動費率(決済手数料・消耗品など)
- 限界利益率(%)= 100 − 変動費率
- 損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 限界利益率
限界利益率とは「売上100円のうち、変動費を払った後に手元に残る率」です。原価率32%+その他3%なら、限界利益率は65%。売上を1万円増やすと6,500円残る、という意味になります。
固定費が月165万円で限界利益率が65%なら、165万円 ÷ 0.65 = 約254万円。これがこの店の損益分岐点売上です。
飲食店では人件費を「固定費」に置く
教科書どおりなら、アルバイトの人件費は売上に応じて動くので変動費です。ですが実務では、私は人件費を丸ごと固定費に入れます。理由は3つあります。
- 暇でも店を開ける以上、最低人数は張り付く(売上ゼロでも人件費はゼロにならない)
- シフトは前の週に組む。当日の売上に合わせて減らせない
- 売上が落ちた瞬間に人を削る運用にすると、人が辞めて店の力そのものが落ちる
人件費を変動費に置くと、分岐点が実際より低く出ます。低く出た分岐点は、届いているのに赤字という現実とズレます。安全側に倒すなら固定費に置くのが正解です。
下の計算機は、この置き方で計算します。自分の店の数字を入れてみてください。結果は全部表示します(登録も入力の送信もありません)。
月額のままでは現場が使えない|1日いくら・1日何人に割る
「損益分岐点は月254万円です」と現場に言っても、誰も動けません。月254万円は、経営者の数字であって現場の数字ではないからです。
営業日数26日で割ると、1日約97,700円。客単価3,000円なら1日33人。ここまで割って初めて、現場が「今日は足りたのか」を自分で判断できます。ランチが20人で終わった日に、夜であと何人必要かがその場で分かる。この状態を作るのが、この計算をする目的です。
うちでは、この「1日いくら」を店ごとに出して現場に共有しています。数字を隠すと、現場は「忙しかったからいい日だった」で終わります。線が見えていれば、忙しくても足りない日があることが分かります。忙しさと利益は別物です。
曜日で線を引き直す
もう一歩進めるなら、1日の必要売上を曜日ごとに配分します。金土が強い店で、全曜日に同じ9.8万円の線を引くと、火曜は毎週「未達」になって線が意味を失います。曜日別の売上構成比で割り振れば、火曜には火曜の線が引けます。どの曜日・どの時間帯が空いているかは席稼働率のヒートマップで見えます。
分岐点に届かないときの3本の道
計算した結果、いまの売上が分岐点を下回っていたとします。埋める道は3本あり、どれも同じ金額を埋める打ち手です。
- ① 売上を増やす:不足額 ÷ 限界利益率 のぶんだけ売上が要る
- ② 固定費を減らす:不足している利益額と同額だけ固定費を落とす
- ③ 原価率を下げる:同じ売上のまま、限界利益率を上げる
計算機はこの3本を同時に、それぞれの金額で出します。ここで注意してほしいのは、「必要な売上の総量」と「いまの不足分」は別の数字だということです。分岐点が月254万円で、いまが月230万円なら、必要なのは254万円、不足は24万円。この2つを混同して「24万円売ればいい」と読むと、月末に足りません。
②の固定費は、思ったより動かない
固定費の中身は家賃と人件費が大半です。家賃は契約期間中はまず動きません。人件費は動かせますが、削れば提供時間が延び、接客が雑になり、辞める人が出ます。固定費削減は「今月の数字」には効いて、「来月以降の売上」を削ります。
逆に③の原価率は、質を落とさずに動かせる幅が意外とあります。歩留まりの改善、ロスの削減、盛りの標準化。ここは原価計算の記事に具体的な手順を書きました。
私の順番は、①をまず机の上で最大まで積んでから、足りない分を③で埋め、②は最後です。削る側から入ると、削った分だけ店が弱って、翌月はもっと売れなくなります。この順番だけは動かさないほうがいい。
黒字の店が見るのは「安全余裕率」
いま黒字なら、分岐点までの距離を見てください。売上が何%落ちたら分岐点に届くか。これを安全余裕率と言います。
月商300万円で分岐点254万円なら、余裕は15.3%。売上が15%落ちたら赤字になる店ということです。台風で3日休んだら、繁華街の人流が変わったら、この15%は簡単に飛びます。沖縄で店をやっていると、この手の「1か月まるごと悪い」が実際に来ます。
余裕率が10%を切っている状態は、黒字であっても構造としては危険です。逆に25%を超えていれば、多少の投資や新しい挑戦に耐えられます。新しい取り組みをやるかどうかを、私はこの数字で判断しています。
固定費を増やす判断をする前に、この線を引き直す
人を1人増やす、家賃の高い物件に移る、機械をリースする。固定費を増やす判断は、すべて分岐点を上げる判断です。
月25万円の人件費を足すなら、限界利益率65%の店では月38.5万円の売上増が必要です(25万円 ÷ 0.65)。1日あたり約1.5万円、客単価3,000円なら1日5人。この数字を出してから「その5人はどこから来るのか」を答えられるなら、増やしていい。答えられないなら、まだ早いということです。
採用のときも同じです。人手が足りないのは事実でも、増やした人件費を回収する経路が見えているかは別に確認します。求人を出す前に、この計算を1回挟むだけで判断の質が変わります。
まとめ
- 損益分岐点売上 = 固定費 ÷ 限界利益率。限界利益率 = 100% − 変動費率
- 飲食店では人件費を固定費に置く。安全側に倒したほうが現実と合う
- 月額のままでは現場が使えない。「1日いくら・1日何人」まで割る
- 必要な総量と、いまの不足分は別の数字。混同すると月末に足りない
- 埋める順番は「売上を増やす → 原価率 → 固定費」。削る側から入ると翌月がもっと苦しくなる
- 黒字なら安全余裕率を見る。10%未満は構造として危険、25%超なら挑戦に耐える
この線は一度出したら終わりではありません。家賃が変わったとき、人を増やしたとき、原価が上がったときに引き直してください。線が引き直されていない店は、去年の地図で今年を走っています。