「うちは満席」は錯覚だった|3店舗の席稼働率をAIで実測したら、一番混んでる店のディナーが半分空いていた
「うちは週末満席だから、集客はもう十分」。そう思っていた店が、実測したらディナーの半分以上の時間帯でピーク時の席占有が15%でした。逆に「そこそこ回ってる」と思っていた店で、本当に満席と呼べるのは金曜の夜だけ。この記事は、私が経営する3店舗の席稼働率をAIで実測し直したら、頭の中の「混んでる・空いてる」がほぼ全部間違っていた、という実録です。
先に結論を言います。席は在庫です。そして多くの経営者(過去の私を含む)は、自分の店の在庫が何%売れ残っているかを知らないまま、広告費の使い先を決めています。
きっかけ:「稼働率96%」という数字を疑った
私の手元には以前から「A店の席稼働率96%」という数字がありました。ほぼ満席。これを見るたび「この店はもう伸びしろがない、次の一手は別の店だ」と考えていました。
ところがこの96%、計算式を分解すると月間来店客数 ÷(席数 × 営業日数 × 想定回転数)でした。問題は「想定回転数」です。回転数は実測ではなく仮定。仮定を小さく置けば稼働率は勝手に100%に近づきます。つまりこの96%は、店の実力ではなく計算の置き方が作った幻でした。
感覚も当てになりません。人間の記憶は「金曜の満席」のような強い場面で上書きされるので、火曜の閑散は思い出せない。「うちは混んでる」という体感は、実際にはピークの記憶を週全体に引き伸ばした錯覚です。
やったこと:POSの会計データをAIに読ませて、曜日×時間帯で塗り分けた
使ったのは特別な道具ではなく、クラウド型のPOSレジに毎日たまっている会計データです。1件の会計には「日時」と「人数」が入っています。これをエクスポートして、AIにこう指示しました。
「会計データから、店舗ごとに 曜日×時間帯(ランチ/ディナー)の来店人数を集計して、席数で割った席占有率のヒートマップを作って。回転数の仮定は使わず、実測値だけで」
ポイントは3つです。
- 月平均ではなく曜日×時間帯に割る。月の平均値は、連休や団体客が1組入るだけで大きく動きます。平均は嘘をつきませんが、隠します。
- 回転の仮定を式から追い出す。実際の会計時刻と人数だけを使う。仮定が入った瞬間、数字は「そうであってほしい姿」に寄っていきます。
- 席数を先に確定する。笑い話のようですが、実測を始めるとき3店のうち1店は帳簿上の席数が現場と食い違っていました。分母が違えば全部が狂います。
結果:3店とも「思っていた店」と違った
出てきたヒートマップは、私の頭の中の3店とはまるで別の店でした。
| 店 | 思い込み | 実測 |
|---|---|---|
| A店(イタリアン) | 稼働率96%・満席の店 | 満席級は金曜夜だけ(占有91%)。平日ランチの火〜木は占有14〜20% |
| B店(ビアバー) | 週末型でそこそこ | 金土は68〜77%で強いが、月〜木の夜は23〜35% |
| C店(パスタ) | ランチの行列で「一番混んでる店」 | ディナーの半分以上の時間帯でピーク占有15%前後=3店で最大の空席在庫 |
特にC店が象徴的でした。ランチに行列ができる店なので、私も現場も「混んでいる店」だと信じていた。でも夜は席の8割が空いている日が普通にある。行列の記憶が、空席の現実を隠していたわけです。
何が変わったか:広告費の当て先が逆になった
この実測から導いた行動原則はシンプルです。
- 広告・クーポン・グルメサイトの純新規は「空いている時間帯」にだけ当てる。A店なら平日ランチ、B店なら平日の夜、C店ならディナー。逆に金曜夜のA店に広告費を使うのは、満員電車に呼び込みをかけるのと同じで、1円も価値を生みません。
- グルメサイト経由の客は週末の夜に偏って来る。だから平日限定クーポンのような形で、流入を空席側に誘導する設計が要ります。放っておくと、広告費は一番席が埋まっている時間に消えていきます。
- 「満席だから出店」を疑う。席が埋まっているように見えることは、出店の根拠になりがちです。でも実測すると、既存店の中にまだ大量の空席在庫が眠っていることがある。埋める余地を残したまま次の家賃を背負うのは順番が逆です。
正直に書く:この実測にも限界がある
都合の悪いことも書いておきます。POSの会計データには「お客様が何分席にいたか」は残りません。会計時刻しか分からないからです。なので満席に近い時間帯の占有率は、滞在時間の仮定に依存して数字が割れます。私は空席側の判断(ここはガラガラだ)には自信を持って使いますが、ピーク側の判断(満席で断っているか)は、現場での実測を取るまで断定しないと決めています。数字は万能ではなく、どこまで信じていいかの線引きとセットで初めて道具になります。
あなたの店でやるなら:3ステップ
- POSレジから会計データをエクスポートする。必要な列は日時と人数だけ。CSVで取り出せないPOSなら、それ自体が乗り換えを検討する理由になります(POSレジの選び方でも書いた通り、データが取り出せることが最重要の選定基準です)。
- AIに集計させる。表計算が得意な人は自分でもできますが、AIなら上に書いた指示文を投げるだけで曜日×時間帯の表になります。席数を必ず現場で数え直してから割ること。
- 一番白い(空いている)マスを3つ選び、そこにだけ販促を当てる。ピークを伸ばすより、空席を1組で埋める方がはるかに簡単で、家賃と人件費はもう払ってあるので、そこに入る売上の利益率は高くなります。
まとめ:感覚の「混んでる」は経営の数字ではない
席稼働率の実測をやって一番変わったのは、広告費の使い方以前に、私自身の口癖でした。「うちは混んでる」「あの店は空いてる」と感覚で言うのをやめて、「何曜日の何時が、何%か」で話すようになった。数字はAIが数分で出してくれます。経営者の仕事は、その数字を見て在庫をどこで売るか決めることです。
ピークの行列は気持ちいい。でも利益の伸びしろは、いつも空席の側に落ちています。