飲食店の値付け|原価率で決めると「一番儲かる皿」を安く売ってしまう

経営ノウハウ公開: 2026-08-23

新しいメインを一皿つくったとき、値段をいくらにするか。ここで私が実際にやらかしかけた話から始めます。

ある新作の肉料理の値付けで、私たちは一度「注文しやすい価格」に着地しかけました。原価率の枠に収まっていて、お客様も手に取りやすい。何も間違っていないように見えました。ところがレンズを一枚替えて計算し直した瞬間、その皿の適正価格は数百円上に動きました。同じ皿、同じ材料、同じ日の話です。

結論を先に書きます。原価率は「超えてはいけない関所」であって、「最適化する目標」ではありません。率を目標にすると、粗利額の大きい看板商品ほど価格を抑えてしまう力が働きます。値付けで見るべきは、率ではなく1皿あたりの粗利額 × 出数です。

この記事では、私が自店の新メニュー開発でつまずいた構造と、そこから作った判断手順を、他店でもそのまま使える形で書きます。

何が起きたか|原価率レンズは「安いほう」に収束する

新作メインの値付けを検討していたときのことです。私の頭の中では、こういう順番で話が進んでいました。

  1. この皿の材料費はいくらか
  2. 原価率の枠(うちは上限を決めています)に収めるには、いくら以上で売る必要があるか
  3. その下限のあたりで、お客様が頼みやすい価格はどこか

一見まっとうです。ところがこの順番には、静かな片寄りがあります。ステップ2が「下限」を出し、ステップ3が「そこから下に近い値」を選ぶ。つまり原価率レンズは、常に安いほうへ引っぱる力を持っているのです。

しかも厄介なことに、この片寄りは強い皿ほど強く効きます。良い食材を使った看板候補は、材料費が高い。材料費が高いと原価率の枠がきつい。枠がきついので「量を減らすか、価格を下げてでも出数を稼ぐか」という発想になる。店で一番強い皿が、一番窮屈な設計をされるという逆転が起きます。

レンズを替える|率ではなく「粗利額」で見るとどうなるか

そこで見方を変えます。率ではなく、その皿が1回売れるとレジにいくら残るか(粗利額)で並べ直すのです。

具体的な数字は伏せますが、構造だけ一般化した例で示します(※以下は説明用の仮の数字で、当店の実数ではありません)。

  • A:前菜 売価800円/材料費200円 → 原価率25%・粗利600円
  • B:看板メイン 売価1,600円/材料費480円 → 原価率30%・粗利1,120円

率で見ればAが優等生で、Bは「原価率が高い皿」です。ところが1回売れたときにレジに残るお金は、Bのほうが500円以上多い。家賃も人件費も水道光熱費も、率ではなく円で払います。率の良い皿ばかりを厚遇して看板を弱らせるのは、順番が逆です。

ここで大事なのは、原価率を捨てるという話ではないことです。原価率の枠は関所として残します。「この線は超えない」というブレーキであり続ける。ただしその関所の内側で、どこに置くかを決めるのは粗利額の仕事だ、という分業にするのです。私の場合、この一皿は関所の内側に収まったまま、価格だけが上に動きました。率を破ったのではなく、率で決めるのをやめただけです。

実際の判断手順|粗利額×出数で決める3ステップ

言葉だけだと現場で使えないので、私が実際に踏んでいる順番に落とします。

ステップ1:その皿を「利益商品」か「集客商品」かに先に分類する

値段を考える前に、役割を決めます。利益商品=粗利額を稼ぐ皿(看板メイン、名物)。集客商品=来店理由やお得感をつくる皿(ランチ、飲み比べ、ハーフサイズ)。この分類を先にやらないと、全部の皿が「なんとなく原価率30%前後」に平準化します。平準化した店は、強みがどこにあるのか客側から見えません。

ステップ2:利益商品は「粗利額の最大化」で価格を探る

利益商品は、原価率の関所を超えない範囲で、粗利額が最大になる価格帯を探します。ここで必ず出る反論が「高くしたら出なくなるのでは」です。だから次のステップが要ります。

ステップ3:粗利額 × 想定出数 で比べる(率同士では比べない)

価格を上げれば出数は落ちるかもしれません。ですから比べるのは「粗利額 × 出数」=その皿が月にいくら稼ぐかです。粗利600円×月100食=60,000円と、粗利1,120円×月70食=78,400円なら、出数が3割落ちても後者が勝ちます。「出数が落ちる」は反対理由になりません。落ちた分を粗利額が上回るかどうかだけが論点です。

この3ステップを踏むと、会議の言葉が「高くない?」から「出数が何食まで落ちたら負けるか」に変わります。後者は計算できるので、決着がつきます。

ポーション設計|「何グラム盛るか」で考えると必ず半端が出る

もうひとつ、この一皿で学んだことがあります。値付けとセットで決まるのが盛りの量ですが、ここで「何グラム盛るか」から考えると、ほぼ必ず半端が出ます。

仕入れは「1枚」「1本」「1パック」という単位で入ってきます。そこから「1皿◯g」で切り出すと、最後に中途半端な余りが残る。その余りは、まかないになるか、廃棄になるか、翌日の品質の落ちた一皿になります。どれも粗利を静かに削ります。

そこで質問を入れ替えます。「何グラム盛るか」ではなく「仕入れ単位いくつから、何皿取るか」。

  • 1単位 → 2皿:半端はゼロ。ただし1皿が小さくなり、看板としては物足りない
  • 2単位 → 3皿:半端はゼロ。1皿が大きくなり、堂々とした見た目になる

私たちが選んだのは後者でした。整数で割り切れる組み合わせの中から、看板として恥ずかしくないサイズを選ぶ。この順番なら、ロスの計算をあとから追いかける必要がありません。半端が構造として存在しないからです。

そして盛りが決まると、材料費が決まり、粗利額が決まり、価格の話が具体化します。値付けとポーション設計は、別々の会議にしないほうがいいというのが実感です。

値付けは会話で揺れる|「確定」を宣言するまで、どこにも登録しない

最後に、これは技術より運用の話ですが、実務では一番効きます。

この一皿の価格は、検討している一日のあいだに3回変わりました。高めの案から始まり、原価率レンズで下がり、粗利額レンズで上がって着地。設計中の値付けが会話で揺れること自体は、まったく正常です。むしろ揺れないほうが、誰も検算していない証拠かもしれません。

問題は、揺れるたびに私たちがレジの商品登録やスペックカード(レシピと売価を書いた現場用カード)を作り直してしまったことです。結果、途中の価格が書かれた紙が現場に流れかけるヒヤリを2回やりました。値段は、一度でも現場やお客様の目に触れたら取り消しがききません。

そこで今はこう運用しています。

  • 設計中は、紙とチャットの上だけで動かす(いくらでも揺れてよい)
  • 「これで確定」と口に出して宣言する(宣言がないうちは全部が仮)
  • 宣言のあとで、レジ登録・スペックカード・メニュー表を1回だけ動かす

たったこれだけで、差し替え事故はほぼ消えました。途中経過を配らない。値付けに限らず、決まりかけの数字を扱うすべての場面で効きます。

明日から使えるチェックリスト

  • 新メニューの値段を決める前に、その皿は利益商品か集客商品かを先に決めたか
  • 原価率を関所として使っているか。目標にしていないか
  • 候補価格を、率ではなく粗利額 × 想定出数で比べたか
  • 「高くない?」への反論を、「何食まで落ちたら負けるか」という計算に変換したか
  • 盛りを「何g」ではなく「仕入れ単位を何皿に割るか」から決めたか
  • 価格を「確定」と宣言する前に、レジやメニュー表を触っていないか

一番効くのは3つ目です。率で並べたメニュー表と、粗利額で並べたメニュー表を一度つくって、見比べてみてください。店の主力だと思っていた皿の順位が入れ替わることが、わりとあります。

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まとめ

原価率30%、FL55%といった数字は、店を守るための線です。守るべき線であることは間違いありません。ただしその線は、「どこまでなら行っていいか」を教えてくれるだけで、「どこに置くべきか」は教えてくれません。

置き場所を決めるのは粗利額です。そして粗利額を最大化する努力は、値引きではなく、堂々としたポーションと、それに見合った価格と、その価格を正当化する一皿の完成度に向かいます。値付けを見直すことは、結局その一皿をもっと良くすることとほぼ同じ作業でした。

同じ皿の値段が、計算し直しただけで数百円動く。それはミスではなく、どのレンズで世界を見ていたかの差です。レンズは、意識すればいつでも掛け替えられます。

この記事を書いた人:シェフキヨ(宮城清兵)
元イタリアンシェフ。沖縄県で株式会社クッチーナ・キヨを経営し、イタリアン・ビアバル・パスタ業態の3店舗を運営中。現場で使える経営ノウハウと、AIを経営に組み込む実践記録を発信しています。詳しいプロフィール
🍴 沖縄で営業中:CucinaKiYO(那覇・銘苅)/BEER BEAR(那覇・おもろまち)/PASTAの日(浦添バークレーズコート)— 一緒に働く仲間も随時募集しています(お問い合わせ
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