飲食店の原価計算のやり方|理論原価と実原価がズレる3つの理由

経営ノウハウ公開: 2026-08-23

「この皿の原価、いくら?」。厨房でこう聞いて、その場で答えが返ってくる店は強い店です。逆に、月末に試算表が出てきて初めて原価率を知る店は、毎月2か月遅れで運転していることになります。

私は元イタリアンのシェフで、いまは沖縄で3店舗(イタリアン・ビアバル・パスタ業態)を経営しています。原価計算は、独立してからいちばん最初に覚えた実務で、いまも新メニューを出すときは必ず1皿ずつ手で計算します。

この記事では、1皿の原価の出し方(理論原価)と、その数字が月末の実原価とズレる理由、そして目標の原価率に寄せる方法を、現場でそのまま使える形で書きます。

飲食店の原価計算は「1皿の理論原価」から始める

原価計算というと難しく聞こえますが、1皿分の計算式はこれだけです。

  • 材料1つの原価 = 仕入価格 ÷ 仕入量 × 1皿の使用量
  • 理論原価 = 使った材料すべての原価を足したもの
  • 原価率(%) = 理論原価 ÷ 売価(税抜) × 100

ポイントは「仕入価格 ÷ 仕入量」で1グラムいくらに直すことです。1kg 1,200円の豚バラなら1gあたり1.2円。120g使うなら144円。これを材料の数だけ繰り返して足すだけです。

実際に1皿計算してみる

トマトソースのパスタ(売価1,200円・税抜)を例にします。

  • 乾麺:1kg 480円 → 1g 0.48円 × 100g = 48円
  • トマト缶:400g 160円 → 1g 0.4円 × 200g = 80円
  • オリーブオイル:1L 1,800円 → 1ml 1.8円 × 15ml = 27円

合計155円。売価1,200円に対して原価率12.9%、粗利は1,045円です。ここまでが「理論原価」で、レシピどおりに作れば必ずこうなるはずの数字です。

下の計算機に自分の店の材料を入れると、この計算をその場でやります。材料は何行でも足せます。結果は全部表示します(登録も入力の送信もありません)。

理論原価・原価率 計算機
材料を入れると、1皿の理論原価・歩留まりを踏まえた実原価・原価率・粗利額と、目標原価率までの道が両方向で出ます。登録不要、結果は全部表示します。

仕入価格と仕入量、1皿の使用量は単位を揃えて入れてください(例:豚バラ 仕入 1,200円 / 1000g、使用 120g)。個数で買う材料は「1000g」を「10個」のように読み替えて構いません。

理論原価と実原価がズレる3つの理由

ここからが本題です。理論原価12.9%で設計した皿が、月末に締めてみると18%や20%になっている。これは計算間違いではなく、飲食店では必ず起きることです。理由は3つあります。

理由1:歩留まり(捨てる分が原価に乗る)

玉ねぎは皮と根を落とします。魚は頭と骨とアラを落とします。1kg買って使えるのが700gなら、実際の単価は仕入値の1.43倍です。1kg 1,000円の魚は、可食部で見れば1kg 1,430円で買っているのと同じことになります。

計算機の「歩留まり」欄は、この分を戻すための入力です。丸魚や骨付き肉を扱う店では、ここを100%のままにしておくと、原価率の見積もりが1〜2割まるごと甘くなります。

理由2:ロス(作ったのに売れなかった分)

仕込みすぎて捨てた分、オーダーミスで作り直した分、賞味期限を切らした分。これらは1皿の原価には出てきませんが、仕入れとしては確実に出ていきます。

ロスは「気をつける」で減りません。減るのは仕組みを変えたときだけです。うちで効いたのは、仕込み量を勘ではなく前年同曜日の食数から決めること、そして日替わりの枠を作って半端な食材の出口を用意することでした。捨てる前に売り切る出口があるかどうかが、ロス率の大半を決めます。

理由3:盛りのブレ(レシピが人によって違う)

これがいちばん大きく、いちばん見えません。100gで設計したパスタが、忙しい日に120g茹でられていれば、原価は2割増しです。1皿30円のズレでも、月500食なら15,000円、年間18万円になります。

対策は「気合い」ではなく計量です。うちではパスタの1食分をあらかじめ計って束ねる、ソースはお玉の号数を固定する、といった形でレシピを道具の側に埋め込みました。人が変わっても数字が変わらない状態にするのが、原価管理の実体です。

理論原価は「設計図」、実原価は「できあがった建物」です。図面どおりに建たない理由を1つずつ潰していくのが原価計算の仕事であって、電卓を叩くこと自体が仕事ではありません。

目標の原価率を超えたときの2つの道

計算した結果、目標としている原価率を超えていたとします。ここで多くの人が「材料を落とす」方向にだけ考えます。ですが原価率は割り算なので、道は必ず2本あります。

  • ① 原価を下げる:使用量を見直す、歩留まりを上げる、仕入先を比べる、構成比の大きい材料から替える
  • ② 売価を上げる:適正な価格に直す、量や付け合わせを含めて価値を組み直す

上の計算機は、この2つを必ず同じ「円」で並べて出します。①だけを見て走ると、皿がやせて、客足のほうが先に減ります。値上げが怖い気持ちは私もよく分かりますが、原価が上がっているのに売価だけ据え置くのは、黙って自分の粗利を削り続けているのと同じです。値上げの実務は値上げの進め方にまとめました。

どの材料から手を付けるか

計算機は材料ごとの構成比を出します。見るべきはここです。原価155円のうち80円がトマト缶なら、オリーブオイルを安いものに替えても効きません。構成比の大きい材料を1つ替えるほうが、10個の細かい節約より効きます。そして手を付ける順番は「客が味の違いに気づかないもの」から。看板商品の主役の食材は、最後まで触らないほうが結果的に勝ちます。

単品の原価率だけを見ても、店は良くならない

最後に、いちばん大事なことを書きます。1皿の原価率が低いことと、店が儲かることは別の話です。

原価率13%のパスタと、原価率34%の魚料理があるとします。率だけ見れば前者が優等生ですが、店にとってはどちらも必要です。13%の皿は利益をつくる係、34%の皿は「この店はちゃんとしている」を伝える係。後者があるから前者も一緒に売れます。原価率を全品30%に揃えた店は、安く見えるか高く見えるかのどちらかになって、印象が濁ります。

だから見るべきは店全体の合計です。食材費(F)と人件費(L)を足して売上の55〜60%に収まっているか。この考え方はFL比率の記事に計算機付きで書きました。単品の原価計算は、FLという合計を作るための部品だと考えてください。

もう1つ、原価率が決まると「店として1日いくら売れば赤字にならないか」も決まります。1皿の粗利が分かったら、次はその粗利で固定費を賄えるかを見てください(損益分岐点売上の出し方に計算機付きで書きました)。

そしてもう1つ。原価を下げると人件費が上がることがあります。既製品のソースをやめて自家製にすれば食材費は下がりますが、仕込みの時間が増えます。FとLはシーソーなので、片方だけの改善は改善に見えて改善ではありません。

3店舗で実際にやっている運用

参考までに、うちの回し方を書いておきます。

  • 新メニューは出す前に必ず1皿計算する。売価を先に決めて、その売価で成立する材料構成を逆算する(先に作ってから値段を決めると、必ず高くなるか赤字になる)
  • 仕入単価は月1回だけ見直す。毎日追いかけても現場が疲れるだけで、判断は変わらない
  • 原価率は品目ごとに役割を決めて、あえてバラつかせる。合計で目標に着地させる
  • 数字は現場の全員に開示する。原価を知らない人に「ロスを減らせ」と言っても伝わらない

特に最後の1つは効きました。1皿の原価を知っているスタッフは、賄いの作り方から仕込みの残し方まで変わります。原価計算は経理の作業ではなく、現場の共通言語です。

まとめ

  • 1皿の原価は「仕入価格 ÷ 仕入量 × 使用量」を足すだけ。まず理論原価を出す
  • 理論原価と実原価は必ずズレる。原因は歩留まり・ロス・盛りのブレの3つ
  • 目標を超えたときの道は「原価を下げる」と「売価を上げる」の2本。片方だけ見ない
  • 手を付けるのは構成比の大きい材料から。看板商品の主役は最後
  • 単品の率ではなく、店全体のFL比率で着地させる

まずは、いちばん出ている1皿を計算してみてください。だいたいの店で、思っていた数字と違います。そのズレの正体を追いかけるところから、原価管理は始まります。

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この記事を書いた人:シェフキヨ(宮城清兵)
元イタリアンシェフ。沖縄県で株式会社クッチーナ・キヨを経営し、イタリアン・ビアバル・パスタ業態の3店舗を運営中。現場で使える経営ノウハウと、AIを経営に組み込む実践記録を発信しています。詳しいプロフィール
🍴 沖縄で営業中:CucinaKiYO(那覇・銘苅)/BEER BEAR(那覇・おもろまち)/PASTAの日(浦添バークレーズコート)— 一緒に働く仲間も随時募集しています(お問い合わせ
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