税理士に「丸投げ」すると危ない|3店舗経営者が実際に経験した数字のズレと付き合い方
「顧問税理士に任せているから、経理は大丈夫」。開業したての頃、私もそう思っていました。今は違います。税理士は数字を代わりに作ってくれる人ではなく、こちらが数字を持っていって一緒に確認する相手だと考えています。この記事では、なぜその考えに変わったのか、実際に経験した出来事から書きます。
税理士は「もう一つの目」として機能する
まず良い話から。ある月、退職したはずのスタッフの給与明細が、なぜか翌月分まで作られていることに、顧問税理士側の源泉所得税の計算過程で気づいてもらったことがあります。「退職済みのはずの方に、まだ明細が作られていますが、支給があるのでしょうか」という一本の確認連絡でした。
調べると、給与システム上で退職の反映が漏れていて、実際の振込には含まれていなかったものの、明細データだけが自動生成され続けていました。振込自体は前月との照合ガードが効いていたので実害はゼロでしたが、これは自分たちだけでは気づけなかった種類のミスです。税理士が「記帳する人」ではなく「数字の異常を検知する人」として機能した瞬間でした。この経験があるから、私は税理士を「外注先」ではなく「もう一つの目」として扱うようになりました。
税理士を変えた時に起きた、「前任にしか分からない」問題
次は苦い話です。事情があって顧問税理士を変更したことがあるのですが、その際に過去の決算処理について疑問が出て、現在の税理士に根拠を尋ねたところ「その処理をしたのは前任の事務所なので、こちらでは分かりかねます」という回答が返ってきました。
当たり前と言えば当たり前なのですが、引き継ぎでは「数字」は渡っても、「なぜその数字にしたか」という判断の理由までは渡らないのだと痛感しました。決算書や元帳といった成果物は引き継がれます。しかし、その処理をした担当者の頭の中にしかない背景は、聞かなければ永久に分かりません。過去の数字に疑問が出たら、現在の税理士でなく、その期を実際に締めた前任の事務所に直接聞くしかない。これは税理士を変える予定がある方だけでなく、「以前の数字がよく分からないまま今の税理士に来た」という方にも当てはまる話だと思います。
連絡窓口が1つしかないと、気づけない事故が起きる
もう一つ、事務的な話ですが重要な発見がありました。顧問税理士とのやり取りは、Gmailではなく専用の連絡ツール経由になっていたのですが、その通知メールがいつの間迷惑メールフォルダに振り分けられていて、数ヶ月分の連絡に気づいていなかったことがあります。試算表の送付連絡も、質問への回答も、全部そこに眠っていました。
税理士とのやり取りは、Gmail・専用ツール・電話・郵送など、事務所によって窓口が分かれます。窓口が1つしかない状態は、その1つが死ぬと連絡が完全に途絶えるということです。月に1回でいいので、迷惑メールフォルダと連絡ツールの両方を自分の目で確認する習慣をおすすめします。「税理士から連絡が来ていないから大丈夫」ではなく、「税理士からの連絡を自分が受け取れているか」を確認する、という発想の転換です。
2つの帳簿がズレていたら、争う前にまず突合する
現金の動きを店舗側の記録と税理士側の帳簿とで見比べたとき、数百万円単位の差が出ていたことがあります。どちらの数字が正しいのか、最初は判断がつきませんでした。
結論から言うと、犯人探しをする前に、まず突合作業をすべきでした。現金売上と、実際に口座へ入金された金額を、日々コツコツ照らし合わせていれば、差はその場で小さく発見できます。溜めてしまうと、原因の特定に何ヶ月分もの伝票を遡ることになり、時間もかかるし精神的にも消耗します。「税理士に任せているから帳簿は合っているはず」という思い込みが、この確認を後回しにさせていたのだと思います。
税理士とうまく付き合うための、実務チェックリスト
ここまでの経験から、私が実際にやるようになったことをまとめます。
- 試算表が届いたら、大きな増減がある科目だけでも目を通す(全部は無理でも、違和感のある数字は聞く)
- 現金・売上のような日々動く数字は、月末を待たず自分でも週次・月次で記録しておく(税理士の数字と自分の数字、2つの視点を持つ)
- 連絡窓口(メール・専用ツール・電話)を最低月1回は横断で確認する
- 税理士を変えるタイミングでは、過去の疑問点は変更前にまとめて前任に聞いておく(変えてからでは聞けなくなる)
- 「分からないので、そちらで確認してください」で終わらせず、自分でも一次資料(通帳・領収書・契約書)を持って一緒に確認する
飲食店経営はただでさえ現場の対応で時間が取られます。だからこそ、数字の部分は税理士に任せきりにしたくなる気持ちはよく分かります。ただ、任せきりと、信頼して協力するのは別物です。今の税理士との連携に少しでも違和感がある方や、これから初めて顧問税理士を探すという方は、一度「今の付き合い方が"丸投げ"になっていないか」を点検してみることをおすすめします。